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児童養護施設にいる子どもたちの学習を通じた自立支援

森山 誉恵 /  Takae Moriyama ( 第1期 )
特定非営利活動法人3keys  

事業概要

 2009年10月に行われた厚労省の調査によって、「一億総中流」「経済大国日本」という言葉で隠されていた貧困問題があらわになりました。経済的苦しさだけでなく、核家族化やコミュニティの希薄化、それによる精神的余裕のなさによる育児ノイローゼなどが、虐待やひとり親家庭の増加を加速させ、親がいるにも関わらず親元で育つことができない子どもたちの増加につながっています。そのような状況におかれた子どもたちの行き着く先が、児童養護施設(以下施設)という場所です。全国約600施設に30000人を超える子どもたちが生活をしています。
 近年、施設において大きな課題とされているのが、子どもたちの自立の難しさです。施設にいる高校生の年間の中退率は7.6%と一般の3倍を超えており、高校に進学した子どものうち3割ほどが卒業しないまま退学しています。また、大学などの進学率もきわめて低く、施設にいる子どもたちの9割以上が高卒以下で自立を迫られています。中卒の子どもにおいては、ほとんどがアルバイト就労をしているのが現状な中、子どもたちの就学・進学における課題が自立の難しさに直結していることは少なくありません。施設出身者がホームレスになる確立は一般の73倍もあるといわれているほど、環境的に自立が難しいのが現状です。多くの場合施設にいる子どもたちは、高校卒業後、親元に帰るのではなく、独り立ちを余儀なくされるため、経済的な援助不足や、コミュニティの希薄化による孤立、生活の知識不足などによって更に状況は厳しくなっています。
 3keysは施設を出る前に、自立できる力をはぐくむ支援として、子どもたちの学習支援を行っております。学習における自信をつけたり、進学や将来に対するビジョンを描けることを目指しています。現在は12施設と提携をし、主に大学生を中心としたボランティアと、起業からの教材やプログラムなどを組み合わせ、施設にとって最適な学習支援を模索しています。
 また子どもたちだけにアプローチするのではなく、社会全体としてもこの問題を認知し、社会が変わる動きとして啓発活動も行っています。この事業にかかわる大学生や若い人々を増やせるよう、勉強会やボランティアに対する徹底的な事前研修を行い、子どもたちやこの課題の代弁者を増やす動きもとっています。

 

事業を始めたきっかけ

ー既存の枠組みだけではもれてしまう。施設児童に特化した支援体制の必要性を感じました

 私は大学2年生のとき、家庭教師と塾講師を経験した後、地元の児童養護施設で学習ボランティアを募集しているのを見つけ、2008年9月から、中学2年生の女の子の学習指導をはじめました。当初、指導経験のあった私にとって、学習ボランティアを行うことに対するある一定の自信はあったのですが、始めてみてすぐに、家庭教師や塾講師とは事情が異なることを肌で感じました。それは、子どもたちの生活面や心理的な部分での不安定さ、自分に対する自信のなさ、周りのサポートが圧倒的に不足していること、そして将来に対する展望のなさなどによるものでした。
 私が経験した家庭教師の場合、子ども自身、意欲や目標を持っていたし、まわりの大人たちもそれに対して全面的にサポートをしていました。宿題を出してもしっかりとこなし、目標に向かってお互い一生懸命になれた気がします。一方で、児童養護施設で担当した子どもは、宿題を出しても宿題がわからなくてできない上にそれを教えてくれる人もいませんでした。周囲に進学する人はほとんどいないため、勉強することの先に何があるのかわからずやる気も持てていませんでした。実の親との面会などがあった週は精神的な不安定さが残っており、学習どころではなく攻撃的だったことも多々ありました。子どもを取り巻く環境が整っていない中で、教えても教えても上手くいかず、教える側の私も挫折感を感じたことがたくさんあります。
 その経験の中で感じたのは、誤解を恐れずにいうと、子どもたちは特殊ではないけれども「この環境は特殊だ」ということです。塾や家庭教師と同じシステムでは子どもたちは遅れを取り戻せず、展望も持てないまま、そしてできない子はできないまま、落ちこぼれていくだけになってしまうと感じたのです。児童養護施設に特化した学習支援体制を作らなければ、子どもたちの学習成果も自信も育まれることはないと感じました。
 これまで70名の子どもたちに学習支援をしてきた経験と実績に基づき、児童養護施設にいる子どもたちにとって最適な学習支援サービス作りをしていきます。

ひとことメッセージ

教育を受ける権利はどんな環境にいる子どもたちにも与えられているはずです。そして我が国では教育の機会は均等にあたえらています。小中学生は義務教育とされ、どんな家庭にいる子どもたちでも学校にいける、そんな恵まれた国です。

しかし、機会が均等になると、機会が与えられている分、できない事は自己責任論に帰化してしまいます。家庭の環境や、児童相談所への行き来、施設での集団生活の中という特殊な環境で、精神状態が不安定であったり、宿題などをみてくれる環境にいない子どもたちにとって、物理的な環境は与えられていても、ほかの子どもたち同様についていくことが難しいケースがたくさんおきています。

3keysはその子どもたちに配慮した学習体制を児童養護施設内に整えることで、一般の子どもたち同様に学校に行ったり、基礎学力をはじめとした必要な学力を身に着け、みずからの可能性を存分に発揮して欲しいと願っています。環境の変化が子どもたちに与える影響はとても大きいと実感しています。

ぜひ、子どもたちがいきいきと可能性を発揮していけるよう、学習支援サービスづくりや、必要な資源の調達、活動の広報などをしていきたい方は、一緒に活動していきましょう!

 

活動レポート

現在のところ、活動レポートはありません。

【事業カテゴリ】
1期生医療・福祉・健康教育・こどもの健全育成

【団体名/事業名】
特定非営利活動法人3keys

【活動地域】
東京

【ウェブサイト】
http://3keys.jp

【ブログ】
http://ameblo.jp/3keys-staffblog

【プロフィール】
日本で生まれ、韓国で育ち、小学生から高校生まで日本、韓国、アメリカを行き来しながら過ごしてきました。自分らしさよりも周りに合わせるのに慣れていたように思います。周りの期待に沿うように進学校に行き、目的意識もないまま、東大か慶應と決めて(勉強はかなり必死にやりまして)慶應に進学しました。「自分の好きなこと、やりたいことがわからない。それよりも、何をやったら認められるか、勝ち組と呼ばれるか」そればかり気にしてきた20年間でした。
そんな大学2年生の時に出会ったのが児童養護施設。色んな葛藤の中で自分の心と真剣に向き合い、泣いたり笑ったりする子どもたちからたくさんの大切なことを教わり、はじめて自分が好きなこと、これをやりたいという感情がわきました。
大学2年生~4年生(現在)まで、3名の子どもたちを指導。
大学3年生の時に、一人で3keysを立ち上げ、6名の仲間を集め、6つの施設に飛び込み営業をし3keysをスタート。
NEC社会起業塾第8期特別メンバー、イノベーショングラント第4期フェロー、日本財団支援など。

【影響を受けたもの】
Cocco、太宰治、山口絵里子さん、パッチアダムス、村上春樹、ドキュメンタリー映画「アヒルの子」

【座右の銘】
自分の心の声に従って、自分の信じた道を歩く

【オフの過ごし方】
ミニシアターに一人で行ったり、国内の何もない静かなところに一人旅するのが好きです